*ちょっとイラッと来る
sacciさんも、カフェオレーベルスタジオのお客さんだった。
ひとりで、小ぶりなアコギを背負って、弾き語りの録音に来た。
身長150cm前後と小柄だが、姿勢が良く、す~っと「動く歩道」に乗っているかのようにスタジオに入ってきた記憶がある。
たいへん物静かで、緊張しているのかほとんど喋らない。
録音が始まっても、必要最小限のことしか喋らない。
必要最小限のことも、喋らない・・。
ちょっと反応が遅くて、
「では、次のテイク行っていいですか~?」
と聞くと、15秒ぐらいの沈黙。
その後、「はい!」と、たった今聞いたかのうように返事・・。
正直、ちょっとイラッと来る。
しばらくして、けっこうよく会話するようになってから
私が「時々スタジオのお客さんに対してイラッと来ることがある」という話をした時に、彼女はさらっとこう答えた。
「それ、いつものことじゃないですか。」
あ、はい・・。
すいません・・。
*聴こえないけど聴こえてくる音
淡々とした弾き語り。
これといった山も無く谷も無く、しんしんと降り積もる雪のように、楽曲は進行する。
しかし、なぜか最後まで聴いてしまう。
弾き語りなのに、アンビエントなエレクトロミュージクを聴いているような気分になる。
でも、この音楽を引っ張っているのは、ただのアンビエントな音響感なのではなく、一本のアコギと、確固とした骨太なメロディーラインだ。
この弾き語りに、ほんとうにアンビエントでエレクトロなアレンジを加えたらどうなるか。
というか、もう既に私の中では音は聴こえていた。
アコギの弾き語りの中から聴こえてくるそれらの音。
それを私が作るのは難しいことではない。
明確なイメージが沸いてしまったら、やるしかないのだ。
シンプルな循環コードの上に、メロディーが展開していく。
それこそ、エレクトロミュージックである。
歴史的にもっと振り返れば、ハウスだし、ファンクだし、祭りばやしだ。
私、シュガーフィールズがずっとやってきたことでもある。
*ソプラノ
年齢は不詳ということだが、実はカフェオレーベルの最近のミュージシャンたちの中では、私を別にすれば最年長である。
若くみえる。
某ファミレスの厨房で働いているという。
ウエイトレスでも事務でもなく、厨房というのが渋い。
厨房内のインカムで、自称「ソプラノさっち」と称する裏声ハイトーンボイスで、
「オムライス入りましたーー!」とか言ってるという。
いまいち想像が出来なかった。
その時は。
健康オタクっぽいところもあり、彼女は一切「麦」を食べないという。
パンも、パスタも、うどんも、ケーキも食べない人生なのだそうだ。
そして、ちょっとスピリチュアルなところもある。
その辺の話になると、突然ギアが入ってよく喋り出す。
*「さちらじ」
ある日、ネットラジオをやってみたいと言い出した。
私は、「まじですか。喋れないでしょ。」と思ったが、
とりあえずテスト気分で録音をしてみるといきなり
「さっちのさちらじ!!はっじまっるよーーー!!!」
という、ハイテンションな番組タイトルコールから始まり、延々と1時間ぐらい喋り始める。
私は、タイムキーパー役をしなければいけなくなった。
これが、ファミレス厨房で鍛えられたという、「ソプラノさっち」の底力なのか!?
*重戦車
・力むことがない。
・常にフラット。
・ギアを入れ替えてしっかり対応する。
・表面的に気合は感じられないが、たぶんいちばん前向き。
・一番小さい重戦車。
と箇条書きしてみる。
*カラオケ化しない
レコーディングは、とても良い作品が仕上がって来ている。
リリースも、間もなく可能だろう。
しかし、ライブはどうするのか。
アコギ弾き語りだけでは、ダメだと感じる。
これは、先のブログに書いた中嶋定治と同じだ。
アコギ弾き語りの中から、「聴こえないけれど聴こえてくる音」があるのなら、それはちゃんと形にしてリスナーのみなさまに届けなければならない。
オケを流しながら弾き語りをすると、取ってつけた感じになることが多い。
いかにも、カラオケで歌ってますという感じになることがほとんどだ。
しかしリハーサルしてみると、オケと弾き語りがきっちりミックスされた録音物のように気持ちよく一体化し、まさに録音作品とほとんど変わらないクオリティーの音が鳴っている。
これは不思議だった。
リハーサル中に、今、録音物が流れて口パクしているだけなんじゃないか?と確認したぐらいだ。
*聴こえない音
物静かで聴こえてこないけれど、彼女の中からは、たくさんの音が聴こえくる。
私は、それを形にするので、みなさん聴いてみて下さい。
私にも聴こえない何かが、聴こえてくると思います。
sacci LIVE